自由の書き手
2007-09-04


禺画像]
更新がサボリ気味ですみません。
おかげで8月のネタがまだ残っていたりします。

ところで、新聞の映画欄に「泉コロナシネマワールド」の文字が。
何時の間にそんなものを。10月8日オープンですって。
ちょっと嬉しいような、それほどでもないような。
この話題についてはまた後日。

今夜はアカデミー女優ヒラリー・スワンク主演
「フリーダム・ライターズ」です。

<物語>
1994年のロス暴動直後のロサンゼルス郊外に建つウィルソン公立高校。
人種間の軋轢で生徒が対立しドラッグや銃が蔓延するこの学校に
教育の理想高き新人女教師エリン・グルーウェルがやってくる。
同僚教師からはすぐに挫折すると冷めて観られ、
生徒達には振り回される毎日だったが、
ある事件をきっかけに生徒達との対話が生まれていく。
そしてエリンは生徒一人一人に対して、
聞いて欲しいことをノートに書くように提案する。
「フリーダム・ライターズ」の始まりであった。


問題児の生徒達を教師が更正させていく、
という一見もう見飽きたような話ですが、
観ればありきたりな青春ドラマではない重みがあります。

ある意味でその職種に染まっていない無垢が幸いした例として
「エリン・ブロコビッチ」を髣髴させましたが、
ミス・G(劇中でのエリンの呼び名)の教育法が
経験を積むにつれ、適度な距離を保ってきます。
暑苦しい熱血で押すのでもない、つきはなすでも無い、
キーとなる生徒達のノートにしても、あくまで提案であり強制ではない、
最終的な決定が生徒に委ねられている、
あるいはのせるのが上手いのであります。

ある事件とは黒人の顔を厚い唇を強調して描いた落書きを発見し、
「昔、ナチスがユダヤ人の鼻を大きく描いたことと同じよ」
と軽い気持ちの差別が深い傷を残すことを説いたにも関わらず、
生徒のほぼ全員がホロコーストを知らなかったということです。

生徒達は満足な本を読まされず歴史を知らない、
そこでエリンが学校や教育委員会に良い本を読ませるよう掛け合ったり、
支援が得られないと悟るやパートで生徒の本代を稼いだりと
実に頭の下がる奮闘の結果、生徒も更正し
歴史や読書への関心も深まるという筋ですが、
これは現在日本の教育が直面している問題と大差ありません。

社会系科目選択制や偏った読書指導は
かつて日本が戦争をしたこと、ヒロシマ・ナガサキ原爆の悲劇
それらを知らない若者が増えている要因でもあるでしょう。
そして日本もまたこんな異端児が評価されない国です。


もう一つ観るべき点、これはアメリカの抱える問題ゆえのものですが、
10代を取り巻く過酷な人種間の対立が細かく描かれている点です。
「16歳になりたい」と言う生徒の言葉は、
まさに16歳になれずに本当に死んでいく可能性があることを意味します。

この人種問題の描き方についてはアメリカのイラク政策を窺わせます。
(と、なんでも結びつけるのはよくないかもしれませんが。)
まず着任したばかりのミス・Gは強権的に理想を押し付けます。
教室の真ん中に線を引き「新しい国境線よ」と言う様がまさにそれで、
しかし、結局のところ自分の価値観へ多種多様の生徒を
はめていくことなどできず、小競り合いはなくなりません。
そうして最終的に辿り着いたのは、一人一人の話を聞き皆で考える、
同じフィールドで対話をするということでした。

問題生徒と教師との人間再生のドラマ、
昔からあるテーマですが、今の時代を的確に写し、
危機感と希望のそれぞれを提示してくれるものは深い印象を残す、
本作はまさにそれにあたる秀作です。
[映画・ドラマ]

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