極限状況下の想い 「収容所のラブレター」
2011-01-21


いよいよ、未公開映画祭作品も残るところ5本になりました。
公式サイトでは視聴期限が1月31日まで延長されました。
(作品購入は1月24日まで)


あるひとつの恋を追い、その背景の歴史を映し出す
「収容所のラブレター」
についてのこと。


■「松嶋×町山 未公開映画祭」作品紹介
 [URL]
原題:Steal A Pencil For Me
2007年 アメリカ (94分)
監督:Michele Ohayon


時は第二次世界大戦。欧州はホロコーストに向っていくなかで、
オランダのユダヤ人夫婦、ヤーブとマーニャのうち、
夫のヤーブがイナという少女に恋をしています。
しかし、ナチスの侵攻が始まり三人は同じ収容所に入れられることに。
ヤーブとイナは収容所のなかで密かに会い、手紙を交わし、
ともにこの戦争を生き延びることを誓います。

あなたは自分が困難な状況下にあるときに、誰か想う人がいるでしょうか。
自分の鋼鉄の不屈の意志だけで苦境を乗り切る人もいるけれども、
誰かのことを想うことで、ギリギリで踏ん張る力が沸くものではないか。
なにもアニメの様な起死回生のスーパーパワーが宿るわけではありません。
ほんの首の皮一枚、蜘蛛の糸一本の様なささやかでか細い力です。

別にその人は恋人や伴侶に限ったことではありません。
親兄弟でも友人でも、尊敬する人たちでも良いのです。
また、自分が踏ん張るのでそれはときに一方的な想いであっても良いわけです。
自分を鼓舞する力であるときもあれば、安らぎをもたらす力のときもある。
人が人を想うことから出る力は小さくとも想像以上の影響力を持つ。
その繋がりを軽んじる者はやがて滅びる。ナチスは人間を否定した。

愛する人がいるということは苦境に耐え得る力になるということを、
ヤーブとマーニャの人生は証明したと思います。
20世紀の歴史で最悪の地獄のひとつを彼らは生き延びたのですから。
生き延びたことそれ自体が、彼らの人間をその絆を否定して引き裂いた
ナチスに対して打ち克てた勝利の証と言えましょう。

ただ、ひどく奇妙なことと言えばその勝利者たちは、
既に結婚していた夫婦の夫君が娘の様な年頃の少女に恋をして、
戦後に細君と離婚して、晴れて生涯を誓い合ったということでした。
そこが、この話の美しさや素晴らしさとして手放しで讃えることを
躊躇わせるというか多少の疑問を抱かせる所以です。

ヤーブとマーニャは仮面夫婦だったとイナは言い、
ヤーブは細君を気分屋で考えがよくわからなかったと言います。
マーニャは離婚後も二人と交流を持っていたけれども再婚はしなかった。
夫君の妹には、彼を愛していると語っていたと言います。

マーニャのその後は幸福なものだったのかその心中を考えると複雑です。
ヤーブとイナのやりとりした手紙の中にマーニャのことが登場し、
一方でマーニャがイナのためにパンを分けた出来事などを聞くと、
一層そのもやもやとした想いが増していきます。

このドキュメンタリーはヤーブとイナのラブストーリーを追いますが、
それとともに映し出される当時の映像も忘れてはなりません。
強制収容所の光景、死屍累々と遥か向こうまで続く死体の山、
引きずられていくユダヤ人、ユダヤ人を移送する列車の出発など。
収容所内での労働としてダイヤ加工の様子も登場します。
(彼らの職能を利用した試み、「ヒトラーの贋札」を思い出します。)


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