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ビートルズの曲33曲に基づいて制作された
ミュージカル映画「アクロス・ザ・ユニバース」について。
<物語>
イギリスの港で働く労働者の若者ジュードは
顔も知らぬ父に会いにアメリカへ旅立つ。
大学で働いているという話にもしやという期待を抱いていたが
実際には父も同じ労働者だった。
とくに感動の再会とも言えず父と別れたジュードは、
街でマックスという気の会う若者と出会いそのまま滞在することに。
NYに移り、ミュージシャンのセディのルームメイトになった二人は
ベトナム戦争とヒッピーの文化に呑み込まれていく。
マックスの妹のルーシーにジュードは恋をするが、
激化するベトナム戦争と共産活動の活発化が
仲間達にヒビを入れていくのであった。
少し前に、若松孝二監督作品「実録・連合赤軍/あさま山荘への道程」
という映画を観ていました。内容は題名が全て語っています。
その映画で感じたのは、「ああ、私が感覚として理解できるのは、
この時代が終わった後からなんだ」ということでした。
だからビートルズの歌を使用したミュージカルで
その60年代後半ぐらいを描いていると言われても、
あまりピンとくるものはありませんでした。
もちろん、折々でジョン・レノンの偉大さには触れているものの、
既に神格化された存在である故に壁を感じ、
それは無宗教者に聖書の素晴らしさを説くようなものでした。
ですが、予告編を何回か観ているとだんだん気になり、やはり鑑賞。
これが想像以上の衝撃でございました。
私はビートルズの曲を全て聴いているわけではないけれども、
本来の意味からはかなり意訳されていることぐらい分かりますが、
その意訳がこの曲をこう使うか!という快感に膝を打つ面白さ。
中でもジョンがヨーコに贈った曲「I Want You」を
ベトナム兵士徴兵検査に持ってくるあたりは、
ジョンの反戦活動も重なって本当にそう意図されたのではと思えます。
「Let it Be」はストレートに現在のイメージで使用されているものの、
戦いで命を落とした兵士の葬儀と、
暴動の犠牲となった黒人の少年の葬儀をクロスさせるあたりには、
全ての人の上に降り注ぐビートルズの歌、という敬意が見えます。
有名な歌をただ歌って踊っていれば良いだけの作品ではありません。
浜辺で1人、「Gril」を歌うジュードの回想から始まり、
奔流のごとく、ビートルズの洪水に身を委ねながら、
物語は共産活動に身を投じていくルーシーに
懐疑的な想いを抱くジュードとのすれ違いへ至り、
心を病んだベトナム帰還兵となったマックス、
メジャーデビューと引き換えに魂のパートナーを失ったセディ達、
それぞれの想いが引き裂かれ、
ジュードは失意の帰郷を果たしオープニングへと回帰します。
しかし、この物語の素晴らしさはそこから始まるのです。
ルーシーへの想いを確かめるジュードに贈られる歌、
それこそが名曲「Hey Jude」!
迂闊なことに、ジュードの名がそこに由来することにそこで気づく。
再び、NYに戻るジュード。着いたところはセディのビルの屋上ライブ。
そこにはやっと本来の自分を取り戻した、仲間達がいる。
でもルーシーの姿だけが見えない。
彼女はジュードへの振る舞いに罪悪感を感じて、
すぐ近くまで来ているのに躊躇している。
すると、ジュードは歌いだす。
ルーシーへのありったけの思いで歌うその曲「愛こそすべて」!
「愛こそすべて」。原題「All You Need Is Love」。
思えばビートルズの歌でなければこんな題名など
陳腐過ぎて聞いていられるわけがありません。
しかし、これこそ「愛こそすべて」!
ビル屋上で歌うジュードの、向かいのビルから
真直ぐに微笑みかけるルーシーを見つけたその瞬間。
瞳は涙の洪水。
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